『マッチ売りの少女』 ■■■■

監督:ジャン・ルノワール

ミニチュア撮影による雪降る街の夜景というオープニングが悲劇の童話の始まりを鮮やかに印象付ける。貧富のコントラストを外と内の境界としての窓を使うことによって残酷に示すルノワールならではの演出や、少女が壁に立てかけられた細長い板の下で雪をしのごうとするシーンなど前半も見所はあるけれど、何と言っても圧巻なのは後半の幻想シークエンスである。厳しい現実の世界が黒い背景に変わると倒れていた少女がふいに起き上がって踊り出す。多重露出によって少女が二人になりやがてまた一人になるとともに降っていた雪が花びらへと変化する。微笑む少女が帽子の中から玉を取り出しジャグリングを始めると画面がボヤけスローモーション処理された白いカーテンの空間に迷い込んでしまうのだが、それは不思議なオモチャの国への入口だった。しかしそこには悪の王がいて少女は狙われるが、一人の若い兵隊が少女を馬に乗せオモチャの国から空へと脱出し、それを追う王との息詰まる空中チェイスが展開される。何とか追撃を振り切るものの少女はいつの間にか力尽きてしまっている。兵隊は少女の亡骸を丘の上に立てられた十字架の傍に横たわらせ軍服に付いていた少女の髪の毛を宙に放る。それが十字架に付くと十字架は木へと変化し兵隊は姿を消す。すると木は美しい花を咲かせ花びらが少女の上へ舞い落ちる。ディゾルブによって花びらが降りしきる雪になると、現実世界の既に息絶えた少女の横顔を映し出す。流麗なイメージの連なりと円環の構造が素晴らしい。最初「マッチ売りのおばさん」にしか見えなかったカトリーヌ・ヘスリングが、最後は『散り行く花』のリリアン・ギッシュのような神々しい死に顔を見せるのも感動的だった。アヴァンギャルド精神に溢れた初期ルノワールの哀しくも美しい小品。

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盤質。いずれも1920年代製作の映画にしてはかなり高画質だと思います。特に『チャールストン』は鮮度の高い黒白映像で素晴らしかったですね。Marc Perroneによるオリジナル・スコアもなかなか良い感じでした。ちなみに『水の娘』は本編が始まる前に以下の説明が表示されます。"『水の娘』は2005年にシネマテーク・フランセーズとSTUDIO CANALによってバックアップ用の35ミリ・フィルムから修復されたものなのだが、アンリ・ラングロワによって作られたこのフィルムは英語字幕版でオリジナル仏語字幕ではなかった。今回、映像処理のためにネガをデジタル化する前に英語字幕版のテキストを翻訳・脚色して新たな仏語字幕版を作成することから始めなければならなかった"。いや〜手間かけてますねぇ。『チャールストン』と『マッチ売りの少女』も字幕画面が新しくなっていますが、それが『水の娘』と同じ英語字幕版を翻訳・脚色した仏語字幕版なのかは不明。