橋本忍『複眼の映像 私と黒澤明』読了 ◎

小国英雄のエピソードが印象的だ。いつも分厚い英語の本(残念ながら何の本かは記されていない)を読んでいて自身は一字も書かずに黒澤と著者の書いた草稿のチェックに徹する言わば検閲官のような役割だったという話や、行き詰まってた『生きる』の主人公・渡辺勘治の人物設定の肉付けをスイスイと行って黒澤と著者を感嘆させた話等々。伊豆での『隠し砦の三悪人』脚本執筆で黒澤、小国、著者、菊島の四人が、ふとしたことから子供の頃のご馳走を各々が振舞うことになるエピソードも面白かったし、黒澤晩年の作品評(特に『夢』)も実に興味深かった。黒澤組の共同脚本は極めて特殊な作業形態だが、近年では『攻殻機動隊 S.A.C』スタッフの長期合宿による共同脚本制作が同じような方法論で素晴らしい成果を上げたことは特筆すべきかもしれない。

私と黒澤明 複眼の映像 (文春文庫)

私と黒澤明 複眼の映像 (文春文庫)