『座頭市』

今夜は立川に映画を観に行く。

監督:北野武

タイトルは『北野武座頭市』にするべきだった?それくらいオリジナルとは似て非なる作品だ。その破壊ぶりは徹底している。市は按摩師で居合いの達人という設定以外はまったくの別物。何とも不気味な存在で、主人公にしては影が薄く、人を斬る部分だけが突出して印象に残る。勝新のような人懐っこさやユーモアも持ち合わせていない。揉みっぷりも悪いし、飯の食べ方や酒の飲み方すら素っ気無い。しかし何よりも驚かされたのが目。ネタバレになるので詳しくは書かないけれど、旧作ファンならひっくり返るようなセリフをクライマックスで言い放つ。最後の最後で「なあんだ」となるも、イマイチ釈然としないモヤモヤ感が残る。市には西洋人の血が入っているのかも(金髪は伊達じゃない?笑)。まったく食えないオッサンである。市以外のキャラクターも実にユニーク。入れ子の構造になっている悪人、やたら饒舌に描かれる姉妹(しかも一人はオカマ)、コメディ・パートを一身に受け持つ遊び人・新吉(ガダルカナル・タカが好演)、『ソナチネ』の殺し屋を思わせる謎めいた凄腕の浪人、田んぼで踊る農民と武士に憧れるオツムの弱い男(『七人の侍』のラストシーンと菊千代への北野流オマージュ)など、いずれも市本人より強い光を放っているのが面白い。冗長ながらも独特の編集で惹き込まれる回想シーンや、一見無意味なのに何故か忘れられないインサートカットの数々、集団タップによる大団円。やっぱり北野武の映画は他にはない異様な独創性に満ちている。ただ殺陣は思ったよりも普通だった。確かにスピーディで演出も凝っているし、カット割りだって格好良い。でも武の動き自体は早いだけの無骨剣法。とても勝新の洗練された美しい殺陣には及ばない。要するにいつもの北野映画で観られる突発的な暴力シーンと同じなのだ。拳銃が剣になっただけで、肌触りは一緒。手や指がポロポロ切れたり、血が派手に飛び散るのなんてまるで『BROTHER』、コミック感覚だ。だからこれはもう100%北野印の時代劇。従来の時代劇なんて眼中にない。だからこそ良い。主人公が死ななかったのはきっと続編があるからに違いない(笑)。