『ノン、あるいは支配の空しい栄光』

監督:マノエル・デ・オリヴェイラ

見事な映画。一本の巨木を延々と映し出すオープニング・シーンの驚くべき吸引力。まるでアンゲロプロスの重厚さとタヴィアーニ兄弟の牧歌的な世界が融合したような映像感覚だ。カエターノ政権末期のアフリカ、泥沼の植民地戦争に従軍する兵士たちによって語られるポルトガル戦史。行き来する現在と過去、饒舌に語られる植民地政策の功罪、淡々と描かれる興亡の様。固定キャメラとミドル・ロングショットによる長回しが、過去を厳粛に傍観する老監督の超然たる眼差しを感じさせる。圧巻だったのは大航海時代のシークエンス。ポルトガルの詩人カモンイスの叙事詩ウズ・ルジアダス」の一節を歌劇で描くファンタジックな映像美が素晴らしい。その天上的な愛の世界は、敗北と死が横溢する本作にあって強烈な異彩を放っている。やっぱりオリヴェイラは凄い。必見!

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画質、音質共に良好。この手のマイナー作品のDVDとしては文句の付けようがないクオリティだと思います。特筆すべきはヨーロピアン・ビスタがノートリミングのスクイーズで収録されているという点。上下左右に黒味が入るために画面サイズそのものは若干小さめになりますが、情報の欠落がないオリジナルの映像で観られことは何にもまして素晴らしいです。解説リーフレット(20ページ)も相変わらず充実の内容。紀伊国屋書店さんの丁寧な仕事ぶりには本当に頭が下がります。