『紅いコーリャン』

監督:チャン・イーモウ

極限まで物語性が排除された生と性と暴力の寓話的世界。あらゆる要素を"紅"に象徴させて描いた壮絶なホラ話。無色透明のコーリャン酒を紅く染めてしまう大胆さ、力強い様式美に溢れた構図、硬軟両様のキャメラワークなど、イーモウの偏執的なまでの映像へのこだわり、鋭いセンスが全編で炸裂している。話としての面白味は薄いけれど、映画の本質の第一はイメージにある、ということを雄弁に示している作品だと思う。汗と息遣い、太陽光と風、野性的なエロティシズムなどには『羅生門』からの影響を強く感じさせる。男達が歌うパワフルな唄の数々が印象深い。後半の日本軍の描写は日本人として複雑な気持ちになるけれど、当時の中国における民主化運動を抗日運動に置き換えた監督の検閲制度に対する苦肉の策と捉えれば、本作のいささか度を越した寓話性にも合点がいく。2年後にはあの「天安門事件」が起きるのだから・・・。ラストは、侵略される歴史の繰り返しの中で今日まで存続してきた民衆(家族)の怒りと哀しみの暗喩なのかもしれない。

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盤質。S/N、解像度、発色、すべてにおいて高レベル。80年代の中国映画としては、これ以上望むべくもない、と言っても良いくらいに素晴らしい画質です。ニューマスターであってもオーサリングによって質が天と地ほどに開きの出てしまうDVDですが、この盤は丁寧な仕事ぶりが素直に映像に現れていてとても好感が持てますねぇ。これなら4,800円でも高いとは思いません。