『海外特派員』

監督:アルフレッド・ヒッチコック

さすがはヒッチコック。反ナチのプロパガンダ映画でありながら、極上の娯楽サスペンスになっている。虚虚実実の駆け引き、ウィットに富んだユーモア、人物造形の面白さと言った脚本の巧みさもさることながら、やはり、奇抜で天才的な視覚効果と演出、これが何と言っても素晴らしい。雨中の暗殺シーンにおけるアップとロングと俯瞰の大胆なモンタージュ。階段、群集、傘、路面電車を巧みに利用した構図の妙。風車小屋や飛行機墜落のシーンでも「んな、バカな」という疑問はそっちのけ、その見事な演出力にただ舌を巻くより他ないのである。緩急織り交ぜた物語構成も秀逸。

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盤質。フィルム傷に起因する白点ノイズが所々目立ちますが、S/Nも階調表現も悪くないです。ただ解像度が甘い感じ。これは本編120分という尺を片面一層に収めているせいで、平均ビットレートが低くなっていること(4.85でした)が影響していると思われます。小冊子の解説は読み応え十分。