『一番美しく』

監督:黒澤明

一途な自己犠牲による国への献身を賛美したプロパガンダ映画。軍国主義下という抑圧の中に生きる女子工員たちの姿は、ある種の純粋ひたむきな美しさに満ちているが、そこには国家が押し付ける「個人を超越した崇高なる精神」というまやかしの鏡によって映し出された歪んだ世界があることも、また確かなのである。不安定な工員の生産力が、一人の傑出した少女と、人格者しかいない大人たちによって、見事一致団結し増産目標を達成するというストーリーには、あからさまに失われた真実と、非人間的な冷たさしか感じられない。しかし、第三者的な立場から客観視する、ということなどできる筈がない当時の人々は、本作をどのような気持ちで受け止めたのだろうか・・・。作業する少女たちをアップショットで次々に映し出していくシーンや、音楽行進を俯瞰ぎみに捉えたシーンなど、ドキュメンタリーのように力強くて美しい映像には思わずハッとさせられた。