『アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記』

監督:ストローブ=ユイレ

いわゆる音楽映画であるが、例えば『アマデウス』のような通俗性の強い娯楽作品とはまったく異なっている。ほぼ全編、演奏風景とバッハの妻アンナのモノローグだけで構成されているスタイルは極めてユニークだ。物語性や感情はことごとく排除され、世俗的な生活、近しい者の死といった事柄が、実に素っ気なく淡々と語られていく。これは、あらゆる情緒的な要素をバッハの音楽という器に集約させようとする演出意図なのだろうか。何とも心地良い、穏やかな余韻が残る。時代物でありながら、ドキュメンタリーのような現実感を感じさせる映像も凄い。『バリーリンドン』も真っ青。

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盤質。ややフォーカスが甘い感じですが、全体的には質の高い黒白映像です。上下左右に黒味の入る完全ノートリミング仕様の小じんまりした画面が、年代記スタイルの本作によく合っています。音はリニアPCM収録。音楽は問題ありませんが、妻・アンナのモノローグはちょっと音が割れ気味ですね。製作者の意図により、チャプターがないのですが、音楽映画、そしてパッケージメディアとしての性質を考えると、やはりチャプター分けして欲しかったというのが正直なところでしょうか。