『ミスティック・リバー』

監督:クリント・イーストウッド

完全に打ちのめされた。あらゆる要素が複雑に絡み合って生じた「偶然という必然」が、メビウスの輪のように途切れることなく連鎖していく人間の暴力性を容赦なく肯定する。人間確かに死ぬときは独りだけれど、生きるということは他人との関わりなしでは成り立たない。その結果として暴力が生まれるのであれば、それはもうどうしようもないことなのだ。イーストウッドの苛烈なまでの現実認識。これをキリスト教の原罪に結び付けることも容易だろう。クライマックスから最後のパレードに至る展開は圧巻だった。ハッピーエンドであると同時にアンチ・ハッピーエンドでもあるという何とも複雑怪奇な結末。この一見不条理とも思える混乱のラストシーンに込められた意味の多様性こそイーストウッドの懐の深さであり慎み深さだと思う。暴力と宗教とアメリカ。人生の皮肉。人間のエゴ。さりげなく画面の奥で揺れる星条旗。やっぱりイーストウッドは現代アメリカ最高の映画作家だ。