『恋恋風塵』

監督:侯孝賢

あまりにも痛くて切ないロマンス。牧歌的でノスタルジックな映像、淡々と穏やかなテンポ、爽やかで静かな語り口。作品の中に一貫して流れる心地良い時間。だからこそ、薄暗がりのベッドの上でむせび泣く主人公の姿が、異様に凶暴な映像となって目に突き刺さり、心を揺さぶって、心臓の鼓動を高める。この突発的な感情の噴出から、また元の静謐の世界へと戻っていく構成は見事だと思う。畑で祖父と交わす他愛もない会話、無言の微笑み合いが本当に素晴らしい。居酒屋で仲間とワイワイ騒いでいる場面の濃密さとか、反復される駅のプラットホームの描写とか、大林映画のお嬢様キャラみたいなヒロイン造形とか、長廻しとか、ロングショットとか、魅力的な細部も沢山。

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盤質。白点ノイズやシュートがやや目立ち、ジャギーが出る箇所(特に遠景ショットの建造物)もありますが、解像度と発色がすこぶる良好なので、全体的な画質は良いと思います。音声はこもり気味でお世辞にも良いとは言えませんが、十分許容範囲です。気になる日本語字幕もほとんど問題ありませんでした。一部、通貨の「元」が「円」になっていたり、「濁点」が抜けていたり、妙な「反復」言葉があったり、「テニヲハ」の使い方が間違っていたりするくらいです(笑)。