『スール/その先は…愛』

監督:フェルナンド・E・ソラナス

軍事政権の時代を厳しく批判し揶揄しながら、マジック・リアリズム的な映像世界によって、夫婦の絶望と孤独、そして再生するまでを綴っていく切なくも美しい愛の寓話。深い青の闇、祭りの後を思わせる道路上の膨大な紙片、無邪気に走り回る子供たちの幻想、白い靄に包まれた閉鎖的な空間、陽気な亡霊(軍政時に殺された主人公の友人)、これらが軍事独裁によって荒廃し疲弊した国と国民の姿を見事に象徴化している。現在と過去が渾然一体となった複雑な構造が、作品に厚みと深みを与えているし、物語が夜に始まり夜明けで終わるというのも、暗い時代が終焉して新しい時代の幕が開けるという希望を感じさせる。哀愁を帯びたアルゼンチン・タンゴの旋律が印象的。