『ヴァンダの部屋』

監督:ペドロ・コスタ

これは一体ナンだったのか?何も起きないし、何も変わらないし、何も語られない。ないない尽くしの3時間。物語的でもドキュメンタリー的でもありません。固定キャメラで捉えられたヴァンダの部屋とスラム街の日常。徹底して反映画的(グリフィスやエイゼンシュテインの影響下から脱却しているという意味における)な作り。ただ、マリファナを吸う光景、咳の音、嘔吐の光景と音、部屋を飛び交う無数のハエ、解体工事の騒音、これら不快な映像と音の執拗な反復から、人や空間や物の実存がヒリヒリした痛み、窒息せんばかりの肉感をともなって心に突き刺さってくるんですよね。異様に生々しくて不気味な現実感覚です。おそらく3時間という現実時間の流れがあってこそ感じ取れる感覚なんだろうと思います。"何もない"から"何かある"を生み出すには3時間という尺が必要だったということなんでしょうね。凄い勇気です。面白いのか面白くないのか、傑作なのか駄作なのか、といった話はこの際どうでも良いような気がしますね。非常にユニークで野心的な作品であることは間違いありません。やっぱり、映画の21世紀はペドロ・コスタと共に始まるのでしょうか(笑)。