『わらの犬』

監督:サム・ペキンパー

ペキンパー料理長による暴力の満漢全席。理性のタガが外れてしまった人間たちのとめどもない暴走の様が延々と描かれる後半の展開(なぜか『バタリアン』の後半部が頭に思い浮かんだ)、そのあまりの過激さにはある種の滑稽さを感じつつもやっぱりグッタリしてしまった。本作を観ると、暴力というものを理屈ではなく感覚的に嫌悪したくなってくる。知的センスで暴力を描いたキューブリックの『時計じかけのオレンジ』のような観念的世界ではなく、暴力がより直接性をもった"負のメッセージ"として心と目にガンガン飛び込んでくるのだ。おそらく唯一例外なのがレイプシーンということになるだろう。『時計じかけ〜』のそれは暴力そのものだけれど、『わらの犬』ではスローモーションと鮮烈なクロスカッティングとねっとりした演出によってかなり繊細なシークエンスになっている。スーザン・ジョージの微細な表情の変化が素晴らしい。痛々しく、悲しく、切なく、そして厭らしい。ブチ切れるインテリ男ダスティン・ホフマンの薄気味悪さも良かった。地位も教養もお金も関係ない。最後は「人間の本質は暴力なのさ」というペキンパーの皮肉な苦笑いが聞こえてくるようだった。