『夫婦善哉』 ■■■□

監督:豊田四郎

浮雲』がとことん陰性なら、本作はとことん陽性のメロドラマと言った感じ。いや勿論、後者にだって深刻な場面はあるのですが、全体的にはしみじみと爽やかな後味が残ります。森繁久弥淡島千景のやり取りがとにかく絶品で観ていて飽きません。それとやっぱり関西弁独特のリズム、柔らかさが魅力的です。キツイ言葉にもどこか温もりがあるんですよね。スタジオシステム時代の豊かさを感じさせる見事な美術セットも大きな見所だと思います。天ぷらや昆布の佃煮やライスカレーなどの食物に関する描写の数々も印象的で、最後も主役の男女が甘味屋でゼンザイを食べる場面から素晴らしいラストシーンへと繋がっていきます。風俗映画というジャンルの大傑作でしょう。