『エレファント』 ■■■

監督:ガス・ヴァン・サント

暴力によって日常があっさり反転してしまう様を、いわゆる擬似ドキュメンタリーという手法で描いたサスペンス・ドラマ。観察者のようなキャメラの動きとか、唐突なスローモーションとか、ふいに立ち止まって空を見上げる女子生徒とか、服の色彩や図柄の記号性とか、同一シーンを異なった視点で反復させる演出の意図とか、いかにも分析してみたくなる、要するに見る側の思考の能動性を促す(『2001年宇宙の旅』のような)映画なんですが、そんな事よりも何よりもいまどきスタンダード・サイズで映画を撮ってしまう不敵さ(鈴木清順に通底している?)が良いですね。本来映っている筈のものがフレーム外に追いやられることで妙な違和感や窮屈さを感じさせ、その映画のセオリーから逸脱した不自然なショットが独特のサスペンスを生み出します。それと歩く人物を背後から追っていくショットがやたらに出てきますが、ひたすら続く長い廊下、長廻し、ステディカム、スタンダード・サイズといった要素は露骨にキューブリックの『シャイニング』を想起させました。『ガンモ』からの影響も少なからずあると思いますね。ただ、安易な感傷に陥りかねないベートーベンの旋律や、銃を積んだ宅配便の車とリーフェンシュタールの『意志の勝利』が映ったテレビを同一画面に収めた皮肉なショットはちょっとあざといかも。まあ単に好き嫌いのレベルだとは思いますが(^^;