『エレニの旅』

渋谷ユーロ・スペースにて。

監督:テオ・アンゲロプロス

最終日ということもあって館内はほぼ満席の状態。ご年配の方が多かったです。ただ初回の正午開始に間に合わず(15分オーバー)、約2時間半も書店やゲーセンで時間を潰すハメになり、挙句に疲れから序盤の所々で意識を失うという大失態をやらかしちゃいました。まさにアホウですね(泣笑)。そんなわけでDVDで再見するまで評価は保留にしたいと思います。さ、とりあえず感想です。一人の女性の苦難の半生を通して近代ギリシャの悲劇を浮き彫りにしていく作品で、『ユリシーズの瞳』辺りから顕著になっている、叙情的なテーマ音楽と感情を表に出す主人公が特徴のセンチメンタルな作風(要するにメロドラマ)になっていました。自分はどちらかというと昔の超ハードボイルドなアンゲロプロスの方が好きなのですが、これはこれで良いですね。いろいろ『旅芸人の記録』と重なる部分もあるのですが、『エレニの旅』は最後以外は編年形式で物語が語られていくので『旅芸人〜』のような混乱はありません。それがちょっと不満な点でもあるんですけどねぇ。とは言え、これぞアンゲロプロス!という映像美は健在でした。印象的だったのは、オペラハウスに住む人々、ダンスシーンの長廻し、モブシーンと黒の強度、木に吊るされた羊、風に揺れる沢山の白いシーツ、多彩な水のイメージ、土手の上での兄弟の対面シーン、蒸気機関車、執拗に反復されるエレニのうわ言などなど。それと村の水没シーン。これはCGで視覚のスペクタクルを捏造する今の映画界の風潮に対する強烈なアンチテーゼになっています。正直、それほど凄いショットだとは思わなかった(過去のアンゲロプロス作品と比べて)のですが、"本当にそこにある"という実在感はやはり圧倒的なものがありますね。これは自分が、起伏に富んだ地形による複雑で閉塞感のある構図ないしは空間造形(アンソニー・マンに代表される50年代の西部劇、アンゲロプロスなら『再現』や『アレクサンダー大王』の山村)にスペクタクルな興奮を感じるからなのだと思います。最も残念だったのは、エレニ役のアレクサンドラ・アイディニがどうしても魅力的に感じられなかったことでしょうか。単に顔が好みじゃないというのもありますが、それ以上に演技臭さ(特に泣くところ)が気になってしまってダメでした。アレクシス役のニコス・プルサディニスも何か野暮ったいし(^^; エヴァ・コタマニドゥはさすがの存在感。それにしても、フィルムならではのしっとりした質感ってやっぱ良いですねぇ。