『夜の人々』 ■■■■■

監督:ニコラス・レイ

キャシー・オドネルとファーリー・グレンジャーが微光さす暗闇の中で甘く寄り添うクローズアップ、そこに重なる「This boy and this girl...were never properly introduced to the world we live in...」という文字、ふいに音楽がサスペンス調になると二人は不安の表情をキャメラに向ける。この短いアヴァンタイトルを観るなり心が震えました。2回目からは涙なくして見れないでしょう。若い男女の逃避行を描いた作品は数多くありますが、あらゆる意味で本作ほど繊細なロマンスは記憶にありません。たとえばオドネルとグレンジャーがストーブに火をつける為にしゃがみ込み、低い位置からタオルを渡すという行為を介して視線を交わす。二人の愛の萌芽をさりげなく視覚化したこのシーン一つを取ってみてもレイのキメ細やかな演出の凄みを感じます。照明の美しさも比類がありません。周囲から孤立化していくにしたがって絆を深めていくオドネルとグレンジャーを、時には優しく時には残酷に包み込む光と影の存在感はモノクロ映像美の極北と言いたくなるほど圧倒的です。ラストシーンは今まで観てきた映画の中で最も美しく悲しく感動的でした。恐らくこれを超えるラストにはこれからもお目にかかれないでしょう。ニコラス・レイのまさに奇跡としか言い様がない処女作。

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盤質。1時間超の特典映像が本編とともにディスク1枚に収録されているので、S/Nが悪く解像度や階調表現も甘いのが残念です。音声は2chと5.1ch(いずれも英語)の2種類。仏語字幕がオン・オフ可能仕様になっているのが嬉しいですね。近々「銀盤Introduction」にレビューをUPする予定。