『ボヴァリー夫人』 ■■■■

v-erice2005-10-18


監督:ジャン・ルノワール

観終わってまず思ったこと、99分(PALマスターなので実際の尺は103分くらい)は短すぎる。190分だったというオリジナル全長版なら、もう本当に凄まじいとしか言いようがないエンマの臨終シークエンスはもっともっと感動的だった筈なのに!と嘆かずにはいられません。99分版は物語構成が散漫ですし、最後に至るまでの話の流れも性急すぎて、臨終シークエンスだけが妙に浮いてしまっている感は否めません。何でも全長版は興行的な理由により配給会社に大幅削除され、カットされた場面は破棄されてしまったのだそうです。あぁ恨めしや。でもルノワール演出の醍醐味は存分に堪能できます。窓や扉や部屋の出入り口などの枠の中に人物を配置する独特の構図。絵画的なパースペクティブを思わせる奥行きのある画面造形。会話シーンはほとんどフィックスによるミドル&ロングショットで構成され、いわゆるハリウッド的なアップの切り返しがない演劇的な演出が特徴です(しかしここぞという場面でパンやクローズアップが使われている)。ふいに傘をたたんだり、扇子を広げたりすることで静的な画面が俄かに活気づくエンマの些細な身体アクションも忘れがたいです。そして馬車。ルノワールの馬車はやっぱり良いですねぇ。なぜかウキウキしてきます。

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盤質。S/Nが悪くシュートも目立ちますが、解像度はそこそこ、階調表現も悪くありません。ただ画面ブレやコマ飛びが気になります。劇中散見される不自然な画面転換は配給会社によるずさんな編集である可能性が高いようです。それにしても190分版どこかに残っていないんでしょうかねぇ。付属のブックレットにはDVDチャプターに対応した原作との比較解説というナイスなテキストあり。