『地獄の天使』 ■■■■

監督:ハワード・ヒューズ

1930年という製作年を考えるとまさに驚嘆すべきクオリティと言っても良い航空アクションが本作最大のウリであることは疑いありませんが、主役である兄弟が空軍に入隊する前の、1人の女性を巡る微妙な三角関係を描いた前半のメロドラマもなかなか見応えがあります。簡潔な描写と含みを持たすようにフェイドアウトしていくシーンの連なりが生み出す軽快なテンポとリズムは映画話法としてかなり洗練されているし、舞踏会シークエンスだけ色彩映画になる演出も洒落ています(全編カラー版というのも存在するらしい)。多情な女を演じるジーン・ハーロウのコケティッシュな表情と所作。見せ場である航空シークエンスは二つ。一つ目はドイツの飛行船爆撃機の夜間任務。飛行船内部のメカニック描写が圧巻で、陰影の濃い画面造形の中、爆弾が淡々と落下していくショットや英軍機の追撃を振り切るためのショッキングな措置などがサイレントのホラー映画のような不気味さを漂わせながら描かれていきます。飛行船の炎上は凄いスペクタクル。二つ目は大型複葉機による爆撃任務で、一つ目とは対照的な真っ白な雲海の中で繰り広げられる美しくも壮絶な空中戦。とりわけ十数機の黒いドイツ軍複葉機が一斉に飛行場から離陸していくシーンは素晴らしかったですね。どちらも劇中音楽を使わない効果音だけのシンプルな演出が映像そのものの良さを際立たせています。このように凝りに凝っている航空アクションですが、戦闘という行為自体は空しく不毛であることが強調され、戦争(そして女性にも)に翻弄された兄弟が悲劇的な末路をたどるという反戦ヒューマニズにハワード・ヒューズの作品に込めた夢と志を見たような思いがします。ところで本作は元々サイレント映画として撮られ、後にトーキー化された特殊な経緯を持っています。このサイレントとトーキーという二つの異なる映画表現の混交も『地獄の天使』の魅力なんですね。