『にがい勝利』 ■■■□

監督:ニコラス・レイ

砂漠が舞台の戦争映画ですが、痛快なアクションも爽快な友情もない、あるのはただひたすらに陰鬱でやるせない人間ドラマ、題名通りの苦い余韻ばかりが残るまさにハリウッド50年代という時代の暗さを象徴するような映画です。本作はニコラス・レイならではの主題とも言うべき「上下の空間」「斜面」「視線」「横たわる人物」がこれでもかと言わんばかりに強調されているのが特徴で、また砂漠の起伏に富んだ地形の中を兵士が自らの足で行軍する"人が歩く"というアクションが特権化された映画でもあります。ガス・ヴァン・サントの『ジュリー』は『にがい勝利』を徹底的に抽象化して再構成したリメイク作品と言えるのかもしれません。それにしてもレイの「視線の演出」には驚かされますね。クルト・ユルゲンスリチャード・バートンルース・ローマン(『大砂塵』のジョーン・クロフォードを数段美しくしたような何とも言えない色気を感じさせる女優で、登場シーンは僅かですが鮮烈な印象を残します)がテーブルを囲んで会話するシーンの視線と編集だけで3者の微妙な関係を視覚的(それも極めて自然に)に把握させてしまう手腕は素晴らしいの一語に尽きます。

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盤質。画質良好。鮮度の高いモノクロ映像です。当初はリージョンALLで日本語字幕付きとのアナウンスでしたが、残念ながらリージョン1の日本語字幕なし(英語字幕もなし)という仕様に変更されてしまいました。SonyPicturesの公式サイトには堂々と「Subtitles: Japanese」と表記されていますが、真っ赤な嘘なのでご注意ください。ちなみにAmazon.comではランニングタイムが82分と表記されていますが、これは大幅にカットされたアメリカ公開版のランニングタイムで、実際には102分のオリジナル版が収録されています。国内盤も遠からずリリースされるのではと期待しています。