『長い灰色の線』 ■■■■□

v-erice2005-11-12


監督:ジョン・フォード

まず言わせて下さいフォード最高!と(笑)。素晴らしい映画ですね。愛情と厳しさとユーモアが絶妙に融合したフォードの真骨頂とも言える極上の人間ドラマ。本作をナショナリズム賛美の映画だと言って批判することほど安易で愚かな物言いはないでしょう。舞台こそ士官学校ですが、そこに描かれているのは純化された人間関係の絆、ただそれだけです。『捜索者』同様、歴史や時代や思想など関係ない単に美しい映画としか言いようがない純粋な透明さ。例えばタイロン・パワーモーリン・オハラが初めて出会うシーン、交わらない視線と物体(ボクシング・グローブと麦わら帽子)の落下運動と突飛な身体アクションを目の当たりにした瞬間言葉にならない映画の快楽が心を震わすんですね。そして食器を割るシーンの過剰さとか、テラスのブランコに乗ったモーリン・オハラが坐ったままの姿勢で浮き上がるところとか、唐突に陰影が濃くなることで暗い未来を予感させる画面造形とか、センチメンタリズムとは無縁の慎ましい死の描写(もちろん叙情的な音楽が背後に流れることなどありません)とか、クッションとショールを使った粋な伏線といった印象的な細部はそれこそ山ほどあるのです。また俳優が老けメイクをすることで50年という物語の時間の流れに一貫性を持たせているのも登場人物への感情移入という点で非常に重要だと思います。もしスピルバーグがこの映画を観ていたら『プライベート・ライアン』の最初と最後に登場するあの若き日のライアンの面影を全く残さない老人も、きっと老けメイクをしたマット・デイモンが扮していたに違いありません。士官候補生の食事シーン、タイロン・パワーが国旗に敬礼するシーン、士官候補生の集団行進シーン、ウェストポイント駅の出征シーンなどシネスコを生かした空間が広く奥行きのあるロングショットも本作の魅力です。キャメラは名手チャールズ・ロートン・Jr。良い仕事してますねぇ。