『対決 第三章』 ■■■

監督:ビクトル・エリセ

二組の男女カップルと一匹のチンパンジー無人の村で無為の時を過ごしながらふいに悲劇とも滑稽とも言えるような破滅的結末に至るという同時代のアメリカン・ニューシネマに歩調を合わせたかのようなエキセントリックな青春映画。冒頭の俯瞰気味のロングショットの風景はアンソニー・マンの西部劇(あるいはヴェンダース的風景)を、それに続く望遠鏡視点のショットはサイレント喜劇(あるいは山中貞雄の『百萬両の壷』)を、そしてクローズアップの多用やスピード感溢れるモンタージュや静止画処理といった演出はゴダールを彷彿させる(明るい陽光や最後のダイナマイトなどまるで『気狂いピエロ』だ!)。本作には約3年後に撮られる『ミツバチのささやき』を予感させるような作家性を感じさせるショットはほとんど見受けられない。コミュニティ幻想やスワッピングといった要素もおよそエリセらしからぬテーマと言える。オムニバス映画の一編であり、しかも雇われ監督に等しい立場であったことを考えれば、エリセらしさが存分に発揮された作品ではなく、むしろ才能が抑圧されていると言っても良いのかもしれない。やはり実質的な処女作は『ミツバチのささやき』ということになるのだろう。ビクトル・エリセの作品はいずれも成熟した映画演出と静謐さが特徴であるが、そんなイメージとは全く結びつかないコミカルで若々しい映画を長編デビューする数年前に撮っていたというのはなかなか興味深い。その意味でも本作は貴重な短編と言えるだろう。

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盤質。映像S/Nが悪くかなりノイジーな画面、ほとんど3倍録画のVHS並の画質ですが発色はそれなりに良いです。まあ元素材となるフィルムの状態から悪そうなのでこれは仕方がないでしょう。ヴィスタのレターボックス収録。音声はスペイン語のみで、残念ながら字幕は一切なしでした。しかしあの!あのビクトル・エリセが初めて商業映画の監督をした作品がDVDになったことは快挙ですし、映画ファン的にはもはや事件といっても良いと思います。是非日本でも発売して欲しいですね。