『最後の人』 ■■■■□

監督:フリードリヒ・W・ムルナウ

オープニングから溜息が出るような画面造形の美しさと滑らかなカット繋ぎ。字幕を極限まで削ぎ落としたまさに純粋映画とも言うべき映像表現のこだわり。カール・フロイントキャメラの素晴らしさ。エミール・ヤニングスも良い。華美なポーター服をまとった巨体、大仰な表情、緩慢な動作は人間というよりむしろ制服オバケと言いたくなるくらい不気味(そして滑稽)だ。ラストは明らかに蛇足だけれど、レストラン内を滑るようにキャメラが動いていくショットや、ホテル玄関前に居並ぶポーターたちにチップを渡していくショットなど映像はそれなりに面白い。しかしこのエピローグはあまりにも話がウマすぎてかえってウソ臭く感じられるのも確かだ。1924年当時のドイツの経済社会が第一次大戦の疲弊によって混沌の極みだったことを考えれば、エピローグは精神破綻した主人公の妄想の産物だったというアイロニカルな解釈も十分に成り立つような気がする。何はともあれ『サンライズ』と並んでサイレント期のドイツ表現主義映画の一つの到達点であることは間違いないと思う。

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盤質。画質良好。ややノイジーですが鮮度の高い黒白映像。伴奏音楽の音質も素晴らしいです。国内IVC盤は英語字幕版で映写速度が速く(約74分)画質も超がつくほど劣悪ですが、UK盤は適正な映写速度(約90分)に調整され字幕もドイツ語です。メイキング映像(約40分)の特典付き。