『キューポラのある街』 ■■■□

監督:浦山桐郎

良質の映画。ヒロインの成長が丁寧に説得力を持って描かれている。吉永小百合の爽やかでひたむきな演技が素晴らしい。トイレに入って口紅をつけてからチンピラに啖呵を切るシーン(ここだけは白黒なのが悔やまれる)や、鉄橋下で初潮を迎えた時の表情が忘れ難い。子供の描写も実に活き活きしている。それと東野英治郎が演じる愛すべき頑固オヤジ!もう絶品の味わい。この人の酔っ払い演技はまさに至芸だ。雑然とした長屋住宅と開放感に満ちた河川敷の土手というコントラストの効いた映像、そして本作は電車の映画でもある(その意味では小津の『生まれてはみたけれど』のリメイクと言えなくもない?)。ところで今だからこそより強烈な印象を残すエピソードがある。それは在日コリアン二世の幼い妹弟との交流と別れだ。これには思わず暗澹たる気持ちにさせられる。希望を胸に北朝鮮へ帰国していく彼らを待っているのはあまりにも過酷な運命なのだから。