『ビガー・ザン・ライフ 黒の報酬』 ■■■■

v-erice2006-09-29


監督:ニコラス・レイ

主人公がいつの間にか狂っていた、ということに気が付いて思わず慄然とした映画が三つある。フラーの『ショック集団』とカサヴェテスの『こわれゆく女』、そして本作だ。何という繊細な演出だろう。物語が淡々と不気味に進む中、ふいに投入される激辛スパイスの鮮烈さ。階段とハサミと聖書とちょっとした音だけで極上のスリルが味わえる(バーバラ・ラッシュの橙色のドレス!)。ジェイムズ・メイスンは素晴らしい。ジョー・マクドナルドキャメラも凄い。室内シーンではカラー映画でありながらモノクロ怪奇映画のような濃い陰影が画面を侵食し、そのただならぬ不安な気配には息が詰まりそうになる。また、父親の厳しい勉学指導に疲労したクリストファー・オルセンが母親から与えられた牛乳を一気に飲み干す場面では、『ミツバチのささやき』の最後で知性を獲得したアナが、コップに入った水を一気に飲み干す場面が重なり、やはりニコラス・レイとエリセは見えない糸で繋がっているのだとシネフィル的なこじ付けをして一人ニヤニヤしたりもした。ところでクリストファー・オルセンは赤いジャンパーを着ている。実はこれにはジェームズ・ディーンへの哀悼の意が込められていたのだ。『理由なき反抗』が『ビガー・ザン・ライフ』の前作であり、ジェームズ・ディーンが事故死したのは『理由なき反抗』の撮影後だったことがDVD付属のブックレットに記されていた。

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盤質。画質良好。平均ビットレートが低く、ノイジーな画ですが、解像度と発色は悪くありません。