『細雪』 ■■■

監督:島耕二

四女の"こいさん"こと妙子を中心に物語が構成されているのが特徴で、メロドラマとしてはそれなりに楽しめるが、原作を知らない人には分かり辛く、原作を知っている人には物足りないという何とも中途半端な作品になってしまっている。こいさん中心ということで大洪水のエピソード(けっこうスペクタクル)がちゃんと描かれているのは特筆に価するけれど、お春どんの活躍が全く描かれていないのは納得いかないし、家族の恒例行事である京都の花見や「B足らん」の描写もなく、男キャラの中では最も存在感のある貞之助が完全なチョイ役なのも寂しい。やはり2時間弱の尺で『細雪』をやるのは無理があるということなのだろう。キャスティングは良い。特に京マチ子(幸子)と山本富士子(雪子)のネイティブ関西弁の会話は実に心地良く耳に響き、品のある関西弁の魅力に改めて惹かれた。叶順子の"こいさん"もかなりイメージに近い感じ。轟夕起子は長女・鶴子を柔らかくも貫禄たっぷりに演じている(恰幅よく『姿三四郎』の時の可憐なお嬢さんの面影はほとんどない)。川崎敬三の"啓ぼん"もなかなか良い味を出している。以下、好きなシーン。幸子が部屋から部屋へと移動し、その手前でお春どんが廊下の雑巾がけを始めると同時にキャメラがスーッと横移動するところ(こういう何でもないような場面でふいに画面が活気付くと嬉しくなってしまう)。幸子と妙子が部屋で口論する場面の大胆なライティング。幸子と雪子が明け方の海岸を歩くところ。