『L'Inferno』 ■■■

v-erice2007-02-22


監督:ジュゼッペ・デ・リグオロ

イタリアで作られた最初の本格長編映画で、短尺版が1911年に公開され、三年後の1914年に完全版が公開された。映画の内容は『神曲 地獄篇』を駆け足ではあるもののほぼ忠実に再現したもので、ダンテが地獄巡りの旅をする、要するにロードムービーである。見所は何と言ってもメリエス的なトリック撮影を駆使した奇怪な映像の数々で、中でも肉欲に溺れた者が荒れ狂う暴風に吹き流される「愛欲者の地獄」の異様な合成ショットは圧巻。全編に登場する無数の全裸白塗り亡者たち(女性もいる)が妖しく蠢く様子はさながら暗黒舞踏を見るようだし、ユダを噛み噛みしてる堕天使ルシファー(原作では三面の顔だが、本作では一面だけ。しかもサダム・フセイン似)のクローズアップはゴヤの『わが子を食らうサトゥルヌス』を彷彿させてなかなか良い感じだった。遠近法を使った巨人の表現や手に自分の首を持った亡者のトリックショットなども印象的。あと子供でも倒せそうな珍妙な造形のケルベロス、これは可笑しかった。1910年代に映画大国として君臨したイタリアのエポックメイキング。これを見た当時の人々はさぞ驚嘆し、また喝采を送ったに違いない。

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盤質。丁寧なレストアが施されたPAL DegiBetaから起こしたマスターを使用しているので画質はまずまず。ノイズは目立つもののコントラストが高く階調表現もしっかりしています。字幕はイタリア語ではなく英語差し替え。タンジェリン・ドリームの音楽は好みが分かれるところだと思いますが、個人的には悪くなかったです。ちなみにインスパイア素材であるギュスターブ・ドレの挿絵が載っている『神曲』の本は谷口江里也・訳のものと、平沢彌一郎・訳の『絵で読むダンテ神曲 地獄篇』がありますが、現在いずれも絶版のようです。ドレの挿絵と言えば『ドン・キホーテ』も有名ですね。