『テキサスの雷鳴』 ■■■

監督:エドガー・G・ウルマー(ジョン・ウォーナーという偽名でクレジットされている)

これはヘンな西部劇だ。冒頭、車で逃走する銀行強盗を馬で追いかける保安官というデタラメな追撃シーンにまず面食らう。実はこの作品、映画が撮られた1934年と時代が同じ、つまり現代劇なのだ。フランス人形のような小さい少女が悪漢に誘拐されてしまうストーリーはグリフィスの少女モノ短編映画を彷彿させる。漫才トリオみたいなユダヤ人三人組なんてのも登場する*1。主人公を演じるビッグボーイ・ウィリアムズは当時のB級西部劇の大スターということだが、確かに演技も容姿も見事なまでのB級っぷり。粗っぽいカット繋ぎ、ロケ撮影の多さ、チープな室内セットなど低予算早撮りならではの要素が散見されるが、最も驚いた(というか笑った)のは、馬に乗った男たちの一団が走るショットでキャメラが横に傾いていることだ。どうやらこうすることで馬が斜面を下っていると思わせたいらしい(乗っている人間がちゃんと手綱を引いて上半身を仰け反らしている)。何という荒技か。ほとんどアヴァンギャルドな珍ショットである。終盤はやはりグリフィス的な演出、救出に向かう保安官一行、主人公と悪漢の屋根上での殴り合い、悪漢と少女の室内でのやりとりがクロスカッティングで描かれるが、いわゆるラストミニッツレスキューによって少女が救われるのではなく、最も弱い存在である少女がみずから危機的状況に終止符を打ってしまう(しっかり前半に伏線がはられている)セオリー外しの展開が面白い。寝間着の上着だけという格好で拳銃を手にした少女が「BOOM!BOOM!」と無邪気に悪漢を脅すシーンは滑稽でありどこか奇妙でもある。ちなみにこの作品、「シネクラブ時代」という本の中の「エドガー・G・ウルマーが陰の映画史を徘徊する」(小松弘)には「ロリコン・ウエスタン」と紹介されている。ある意味でそれは至極まっとうな見方なのだが、「少女を見るビッグボーイ・ウィリアムズの目がおかしい」という指摘にはかなり無理があると思う。

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古典ハリウッドのB級作品中心のラインナップでお馴染みの「VCI HOME VIDEO」からリリースされているVHSです。画質はPD盤のB級西部劇と同じレベルです。「TURNER CLASSIC MOVIES」というサイトで購入。エアメールでの発送で到着には約一月ほどかかりました。

Official TCM Shop | Bring Home the Classics

*1:ウルマーはイディッシュ映画というユダヤ系移民のための映画を何本も撮っている