『NHK プロフェッショナル仕事の流儀スペシャル 宮崎駿・創作の秘密』

番組史上屈指の面白さだった。『ゲド戦記』の初号試写の模様は宮崎駿研究者ならずとも必見でしょう。以下引用。


開始一時間で席を立った宮崎駿がロビーの喫煙席で発した言葉。

「気持ちで映画を作っちゃいけない」
「3時間ぐらい座ったような気がする」


試写終了後に「マセた、哲学的な映画を撮ったねえ吾朗ちゃん」と声をかけてきた氏家齊一郎に「いやぁ・・・」と囁くような声で呟き、ほとんど無視同然に去っていく宮崎駿の姿が印象的だった。


そして休憩所で一服する宮崎駿とカメラマン(番組ディレクター)との会話。

宮崎駿:「何を聞きたい」
番組D:「いやぁあのぉ・・・見た感想って言うか・・・」(完全にビビっている)
宮崎駿:「僕は自分の子どもを見ていたよ」
番組D:「自分の子ども・・・」
宮崎駿:「大人になってない」
番組D:「ああ・・・」
宮崎駿:「それだけ」


ゲド戦記』に対する宮崎駿の感想として一般的に知られているのは「素直な作り方で良かった」というものだが、やはりこの言葉にはいろいろと複雑な想いが込められているようだ。


宮崎駿は映画制作前に瀬戸内のある崖の上の一軒家に一人でこもる。こんなところまで追ってきてカメラを向けるディレクターにあからさまに不快感を示す宮崎は「一番人間が孤独でいるときに声をかける必要は全然ないんだよ。それをどういう風に撮るかってのがカメラを持っている人間の仕事なんだよ。そのときにどういう気持ちなんですか?って君は聞くだろう」となじる。その日の夕方、崖の上の一軒家を訪れた番組ディレクターは宮崎駿にある質問をぶつける。


宮崎駿:「何?」
番組D:「あのぉちょっと一つだけお伺いしたいことがあって。あのぉ宮崎さんその、孤独になるっていうのはそのやっぱり何か作品をつくる上で絶対、必要な時間っていうか、なんですかねえ」
宮崎駿:「そんなの分かりゃしないじゃない。人によってみんな違うでしょう」

ここでカットが割られる

宮崎駿:「僕は不機嫌でいたい人間なんです、本来。自分の考えに全部浸っていたいんです。だけどそれじゃならないなと思うからなるべく笑顔を浮かべている人間なんですよ」

ここでディゾル

宮崎駿:「みんなそういうものを持っているでしょう。そのときにこうなんかやさしい顔をしていますねとか、笑顔浮かべていると思う?映画はそういう時間に作るんだよ」

ここでまたディゾル

宮崎駿:「映画が近くなって来たらどんどん不機嫌になるさ。・・・さあ、もういいだろう」


そう言って部屋を出て行く宮崎駿。「ドキュメンタリーは嘘をつく」が、面白いか面白くないかということで言えば、今回のドキュメンタリーはもうべらぼうに面白かった、この一言に尽きるだろう。ただ、宮崎駿という偉大なる変人はカメラマンである番組ディレクターにとって明らかに荷が重すぎた。原一男森達也宮崎駿を撮って欲しいものだ。富野由悠季でも良いけど(こっちも凄そうだなあ)。


ちなみに『プロフェッショナル仕事の流儀スペシャ宮崎駿・創作の秘密』の再放送はなぜか未定だそうです。