『愛人』 ■■■

監督:市川崑

これはなかなかの佳作だった。メロドラマとホームドラマの間をゆらゆらと行き交う、不安定で曖昧な物語が面白い。霧中のテニス、川原の情景、室内の柔らかな陰影など玉井正夫キャメラが素晴らしい。小道具も適度なアクセントになっているし、不吉な装置としての階段の使い方も特筆に価する。越路吹雪が一瞬見せる微笑の凄み。有馬稲子の反則的な可愛らしさ。随所に出てくる押し付けがましいクローズアップさえなければ文句なし。市川崑の演出ってけっこう野暮なところがある。