『恋人』 ■■■□

監督:市川崑

素朴で地味だが魅力的な細部に彩られた美しいメロドラマの小品。こういう作品こそ本当に豊かな映画なんだと思う。木下恵介の『お嬢さん乾杯』を思い出した。池部良久慈あさみが『哀愁』を見るシーン(引用がやたら長い)がある。二人が最後に向う深夜の駅のシークエンスが素晴らしい。ショットは引きのフィックスが基調、細かいカット割りもなく、技巧的なキャメラワークやクローズアップはここぞという場面でしか使われない。後期の市川作品には見られない抑制の効いた慎ましい画面造形、やはり初期の市川崑は新鮮だ。