『フォーゲルエート城』 ■■■

監督:F・W・ムルナウ

レベッカ』や『ジェーン・エア』や『扉の影の秘密』のような舘系サスペンス・メロドラマの元祖と言えるような作品。しかし台詞の絶対量が少なく台詞自体も簡潔にならざるを得ないサイレント映画でありながら、演技や画面造型に説明的で誇張されたところがない。むしろそういう演出が意図的に排除されているようにも見える。だから心理劇であるにも関わらず話の内容が分かり辛い。城内という広大な空間に少数の人間がいて、あまり動くこともなく静かにドラマが展開していく様はどこか超現実的で不気味だ。悪夢のシーンや美しい回想シーンなども印象に残るが、この全体に漂う何とも不思議なムードがこの映画の面白さなのかもしれない。いささか狐につままれたようなスッキリしない気分だが、ムルナウらしい異色のサイレント映画である。

Sat, May 07