『腰弁頑張れ』 ■■■□

監督:成瀬巳喜男

素晴らしい。ある貧しい家庭の哀歓を描いたたった30分の小品だけど、多重露光やネガ反転、凝った画面切り替えや鏡を使って人物の表情を歪ませたりとドイツ表現主義的な演出が多用されていて面白い。最後の病院シーンの強烈な逆光による陰影の濃い画面造型はまるでフィルムノワールを見るかのようだった。「小津は2人もいらない」と松竹をクビにされた成瀬だが、この作品には題材的な類似こそあれ、演出的には小津とはまったく異なることをやっているのが分かる。ただ主人公の家が線路傍にあって、ときおり一両編成の電車がすっと画面の奥を流れていくのは小津のサイレントと共通する映画的幸福感に満ちた光景だ。