『晩春』

今週は小津週間の第二弾として先日購入した『小津安二郎 DVD-BOX 第二集』を観ていこうと思います。

監督:小津安二郎

やもめの親と娘の結婚をめぐるドラマ。後年の『秋日和』や『秋刀魚の味』の祖型とも言える内容であり、いわゆる小津様式が確立された作品としても名高い本作。ただ、移動撮影やアップショットが使われているあたり、まだ多少の贅肉が付いている、と言った感じ。素晴らしいのは原節子!何と言っても彼女に尽きるだろう。彼女が最も美しい時期に撮られたとあって、その輝きはまさに太陽の如く。共演者たちをことごとく圧倒し、焼き尽くさんばかりの、その存在感にただただ溜息。とりわけサイクリング・シーンの笑顔、これには本当に参った。もうお口あんぐり。これほど魅力的な笑顔は久々に観たような気がする。『ミツバチのささやき』で脱走兵とアナが微笑み合うシーン以来の衝撃かもしれない。けっこうアクの強い顔立ちなので好き嫌いが分かれそうだけれど、他の日本人女優にはない特別な「美人オーラ」を纏っているように思える。なかでも斜めから捉えた正面ショットでは信じられないくらい美しく見える瞬間がある(前述したサイクリング・シーンを初め、「能」を見るシーン、布団に横たわるシーンなど)。ただ、ほぼ真正面から捉えたショットでは、あまり魅力的に見えないのが不思議だ。また本作の特色として、娘の父親に対する異様なまでの情愛の深さがある。再婚をほのめかす父に向けられる冷たい視線(怖すぎ!笑)、クライマックスの告白など、単なる親子愛を超えた近親相姦的な色合いを帯びている点も興味深い。後年の同じテーマを扱った作品とはここが大きな違いであり、妙に生々しい。あっ最後に一言。杉村春子イイ味出しすぎ。がま口拾うところなんて最高。

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さて、盤質です。デジタルリマスターとは言え、そこは50年以上も前の映画、さすがに傷や劣化によるノイズを完全に除去するにはいたっていません。画面揺れが目立つ箇所やコマ飛びなんかもあります。とは言え全体的には十分合格レベルの黒白映像だとは思います(でも、クライテリオンには負けるんだろうな、きっと^^;)。音はそこそこ。セリフが不明瞭なのが残念です。まあその為の日本語字幕付き仕様でもありますからね。無問題でしょう。