『麦秋』

続・小津週間。第二夜目。

監督:小津安二郎

これまで観てきた小津作品の中では一番「家族」というものが強調されて描かれていると感じた。でも、やっぱり適齢期の娘が嫁に行く、行かないといった話が軸になっている(笑)。この娘である紀子を中心に、兄夫婦、夫婦の子供二人、両親の家族模様が実に丁寧にバランスよく、ユーモアを交えて淡々と語られていく。また本作でも移動撮影が使われているが、別に違和感はなく、それどころか全く異なる場面と場面を鮮やかに繋いで、見事な効果を生んでいるのには目を見張らされた。最後の方ではクレーン・ショットも出てくる(その直後に海岸で原節子三宅邦子が語らうシーンの素晴らしさときたら!)。ところで本作の大きな魅力のひとつに会話の面白さが挙げられると思う。特に原節子淡島千景の未婚者コンビ(笑)が語尾に「〜ねえ」を付けて、それを延々繰り返しながら既婚者の女友達をからかうシーンは何とも可笑しい。他にも料亭でのエチケット談義、原節子三宅邦子の高級ケーキをめぐるやり取りや、杉村春子原節子に結婚話をきり出すところなども秀逸。日常の取り留めのない会話を計算され尽したテンポと間と言葉の妙味によって、普遍的でありながらもユニークなものにしてしまう、ここに小津映画の凄さを見る。

***********

盤質は昨日観た『晩春』よりも良い感じです。マスターに起因する劣化ノイズもそれほど気になりません。最後近くで画面揺れが発生するもののコマ飛びも無く落ち着いた黒白映像が堪能できます。音もなかなかクリアで『晩春』のように聞き取れない箇所はありませんでした。