『お茶漬の味』

続・小津週間。第三夜目。

監督:小津安二郎

親娘でもなく、家族でもなく、「夫婦」に焦点が当てられた作品。『彼岸花』で亭主関白丸出しオヤジだった佐分利信が、本作では心が広く優しい恐妻家を好演している。貫禄ありまくりの顔と声に似合わない役だが、そのアンバランスさが妙な可笑しさを醸し出していて良い。汁かけ御飯を食べて妻に叱られる場面がケッサク。その妻を演じる木暮実千代も素晴らしい。小津映画の主演女優としては異色な感じだが、ワガママで鼻持ちならない女を実に巧妙に演じている。ところで興味深かったのが、時折、室内を前や後に少しだけ移動するキャメラだ。普通の映画なら何でもない動きだが、小津映画においては奇異な印象を受ける。観ていてふと思ったのは、これは「夫婦関係の不安定さ」を表しているのかなぁということ。なぜなら夫婦の間に本当の絆が築かれるラスト近くのシークエンスからキャメラはビシッと固定されるからだ。ちなみにこのシーンで木暮実千代がほんの一瞬見せる微妙な喜びの表情、これが絶品。またその後、夫婦が台所で共にお茶漬けの用意をするシーンの濃密で幸福感溢れる描写、食事シーンで夫が妻の「糠臭い手」を取って匂いを嗅ぐという小津監督らしい品のあるラヴシーンまで、ここの一連のシークエンスはとにかく見応えがある。そしてラスト。鶴田浩二津島恵子のじゃれ合う姿をジッと見守っていたキャメラが最後の最後でスーッと前に移動する。この演出に監督の明確な意図が見て取れる。つまり、二人は近い将来夫婦になる。これを前述した「キャメラの移動=夫婦関係の不安定さ」という解釈に照らし合わせてみると・・・前途多難な夫婦生活を暗示する意地の悪いユーモアと言えるのではないだろうか?(笑)

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さて、盤質。画質は『麦秋』同様なかなか良い感じ。ただ音声はいまひとつ。ヒスノイズが盛大で、セリフもやや不明瞭、音が極端に小さくなってしまう箇所があるのが残念。