『神曲』

監督:マノエル・デ・オリヴェイラ

聖書、哲学、ロシア文学ポルトガル文学のテクストを縦横に引用、コラージュしながらキリスト教的な精神世界を語り、しいては欧州文明と人間の本質を顕わにしようという何とも大胆不敵にして繊細な映画。しかし、まったくピンとこなかった、というのが観終わっての率直な感想。この映画をスポンジのように吸収できるのは、ある程度の教養を持ったキリスト教圏の欧州人だけなのではないだろうか。部外者には作品を表面的に理解することはできても、皮膚感覚として実感することはできないと思う。ただオリヴェイラらしい重厚で静謐な雰囲気と、虚と実が渾然となった魔術的な映像は存分に堪能できるし、延々と繰り返される対話の数々は難解ではあるものの、人間存在の根源的な問題に鋭く切り込んだ示唆に富む内容になっている。俳優陣の演技も素晴らしい。マリア・ジョアン・ピルシュによるピアノ演奏にはただただ聞き惚れるばかりだ。頑なに固定されたキャメラ、壮麗な美術、セットのユニークな見せ方・使い方など、今まで観てきたオリヴェイラ作品の中でもひときわ演劇臭が強い。それでいて本作が"映画"以外の何物でもないことをあからさまに表明するラストショットの粋な仕掛け。本作を語るにはあまりにも勉強不足、理解不足だと分かっていながら"この映画は傑作だ!"と声を大にして言わずにはいられない。レオノール・シルヴェイラ嬢の美しすぎるヌードが冒頭で拝めてしまう作品であることも蛇足ながら付け加えておきます(笑)。

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盤質です。上下左右に若干黒味が入るスクイーズで収録されていますが、残念ながら画質は良くありません。全体的にノイジーで、シュートや画面揺れも目立ちます。さらに字幕が画面の右側に表示される劇場版仕様なので背景が白い場面では見難いです。ちなみにオン・オフも不可。付属のリーフレットは作品理解を深めるための手引き書として申し分の無い内容になっています。