『六月の蛇』

監督:塚本晋也

セックスレス夫婦に内在するエロティシズム、その妄想と解放を描いた、ある種痛快な官能活劇。これは塚本晋也によって大胆に変奏された『アイズ・ワイド・シャット』だ。このキューブリックの遺作のラストと『六月の蛇』のラストで示される結論の意味は同じである。前者は言葉で、後者は映像で表したまでのこと。面白いのは、テーマが同じでありながら作風は全くの正反対になっているという点。粒子の粗い青いモノクロ、キャメラの激しいブレとズーム、目まぐるしいカット割り、雨、夫婦の容姿、音楽、湿気のある映像、といった『六月の蛇』の要素は見事なまでに『アイズ・ワイド・シャット』を構成している要素と対照的になっている。だからどうしたと言われればそれまでだけれど、私的にはとても興味深く感じられた。夫婦を演じる黒沢あすか神足裕司、どちらも絶品。黒沢あすかの表情と肉体と声は凄い。倒錯的エロスの塊みたいな女優だ。方やデブハゲなオヤジの神足裕司は抜群の滑稽味を見せる。風呂掃除、秘密クラブ、雨中の自慰など笑いを誘う名(?)シーンがてんこ盛り。それにしても夫の名前が辰巳重彦・・・ってシャレになってませんがな(爆)。傑作。