正月から読み始めていた谷崎潤一郎の「細雪」を読了しました。いや〜面白かったです。没落した旧家の4姉妹(実質的には3姉妹)の物語。流麗かつ柔らかな筆致によって紡ぎ出される「おんな文化」と「上方文化」。言葉や地名に馴染みがないので最初は読み辛かったのですが、慣れてからはもう水の流れのごとくスラスラと気持ちよく読み進めることができました。主人公とも言うべき次女・幸子の繊細極まりない心理描写が絶品です。奥床しさ全開の三女・雪子、トラブル・メーカーの末女"こいさん"こと妙子、お茶目な女中・お春、幸子の夫で優れた人間性を持つ・貞乃助、憐れなボンボン奥畑、隣人のシュトルツ一家等々、人物造形がとにかく見事で、各人の輪郭を実にはっきりと思い描くことができます。で、モダンな雰囲気や、時折はさまれるユーモアの感じから、本作に小津安二郎の映像世界を重ね合わせて読んでいたのですが、先日たまたま書店で見つけた「監督小津安二郎入門 40のQ&A」という文庫の中に"小津は谷崎の本が大好きだった"という記述があって、いたく感動したのでした。小津が愛した志賀直哉芥川龍之介といった作家同様、映画化することはありませんでしたが、それだけに東宝が『細雪』を撮るという話にはかなり憤慨していたそうです。『細雪』はこれまで3回映画化されています。いずれも未見ですが是非全てを観てみたいですね。一番新しい市川崑版は3月にDVD化されるので購入するかもしれません。ちなみに小津映画の出演者を自分なりに「細雪」の登場人物に当てはめていくと、長女・鶴子が三宅邦子(又は田中絹代)、次女・幸子が原節子、三女・雪子が井上雪子、四女・妙子が岡田茉莉子、貞乃助が笠智衆、辰雄が佐分利信、お春が山本富士子、奥畑が高橋貞二、板倉が須賀不二男、三好が佐田啓二、井谷&丹生・女ギャングの両夫人には杉村春子浪花千栄子、御牧が加東大介、櫛田医師が北竜二、あぁ〜妄想が止め処なく広がっていく(笑)。小津の谷崎、観てみたかったですね。

細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)