『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

監督:ジム・ジャームッシュ

どうしようもなく、さえなくて、ぶっきらぼうで、なげやりな青春を、とことん様式化した映像と演出と会話で、途方もなく格好良く描いてしまった凄い映画。ショットの切り返しを排したワンシーン・ワンショットによって登場人物3人の心の交感は拒否され続ける。その擦れ違いは、最後に多少の可笑しみを伴いながら、決定的な形として示されてしまう。心地良い流れを容赦なく寸断する黒味ショットは、ファジーな物語とは裏腹に人生の厳しさをやんわりと語りかけてくるようだ。雪と凍った湖しかないクリープランドではハンガリー語をまくし立てる老婆とカンフー映画が奇妙な温かみを与えてくれる。でも太陽と海があるフロリダはどこまでも寒々しい。海岸をぶらつく男2人と女1人、吹きつける潮風に自然と顔がほころんでくる。本作に出てくる笑顔はどれも素晴らしくて忘れ難い。寂しいし、空しいし、情けないけれども、この映画には人間存在へのシャイな優しさが溢れていると思う。それだけで十分じゃないか。自分にとってのジャームッシュ最高作、やっぱりこれしかありえない。