『旅立ちの汽笛』

監督:アクタン・アブディカリコフ

キルギス映画。徴兵を直前に控えた青年の茫漠とした不安感を、繊細なタッチで綴った青春群像の小品。何か"事"が起きた後も長々とキャメラを据え続ける独特の演出リズム(映像の余韻とでも言おうか)が不思議な心地良さを与えてくれる。随所に現れる詩的な美しいショット。特に月明かりが差し込む窓辺で兄妹がバラの絵を描く場面は素晴らしい。性の象徴としての奔放豪快な大女(まるでフェリーニ!)、顔に大きなアザがある寡黙な女、青年が想いを寄せる金髪のそばかす少女など、多彩な女性たちの存在も本作の大きな魅力の一つ。全編に漂う静かで瑞々しい感性は、ホウ・シャオシェンビクトル・エリセの世界と似ているかもしれない。紛れもなく傑作だと思う。