『小早川家の秋』

監督:小津安二郎

気味の悪いホームコメディというのが観終わった直後の印象だった。カラッとした明るさと登場人物たちの笑顔に彩られていた物語は、司葉子の不吉な涙をきっかけにして何やら異様な様相を帯び始める。病床の中村鴈治郎が、突然白い着物、頭上に白い手拭いという出で立ちでヒョコヒョコ厠へ行く場面は陽気な幽霊を見るようで、かなり怖い。このあと作品は、前半と変わらない明るさのまま、ほのかに漂ってくる死の臭いによってズレを起こし、得体の知れない不気味な雰囲気を感じさせるようになる。無邪気な団令子によって、生も死も、宗教さえも混交曖昧になってしまう場面の奇妙なユーモア。パッと消えるような唐突さで物語から退場してしまう鴈治郎が可笑しくもあり哀しくもあり・・・。小津監督の死生観が濃厚に反映されている作品だと思う。杉村春子がチョイ役ながら強烈な印象を残す。サラッと恐ろしいことを言わせたらこの方の右に出る女優はいません。ひぃぃぃ。

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盤質。オープニングの画面揺れとS/Nの悪さが気になりますが、解像度と発色は良いです。