『全身小説家』

監督:原一男

癌に冒された、死にゆく作家・井上光晴を追ったドキュメンタリー。井上は語る、小説を書くというのは嘘を付くことだ、そして記憶の取捨選択によって綴られる自伝もまたフィクションなのだと。ならば、映像ドキュメンタリーも所詮は恣意的なものであり、製作者の意図によって撮られ編集される点においてフィクションなのかもしれない。本作は現実と虚構、ドキュメンタリーとフィクションの間を行き来しながら、井上の嘘八百の人生を容赦なく暴き出していく。そこには人間と世界の本質を逆説的に捉えようとする、原一男のしたたかな眼差し、そして、厳しくも深い愛情が存在している。