『狩人』

監督:テオ・アンゲロプロス

内戦終結後も続いた不安定な政情がようやく沈静化に向いつつあった1976年の大晦日。冬の狩を楽しむブルジョワたちが、内戦で死んだパルチザンの遺骸を発見する。かつて反政府軍の司令部だったホテル"栄光館"を舞台に、支配者階級の欺瞞と無責任とデカダンと強迫観念が、時代を自在に行き交いつつ、痛烈な皮肉と滑稽さを含みながら描かれていく。ギリシャ現代史の抑圧された負の部分を解体し、現在と過去と幻想を複雑に絡めながら再構成することによって高度に抽象化された本作の物語は『旅芸人の記録』以上に内的性格が強く分かり辛い。ただギリシャ史に関する細かい知識がなくても、この映画が放つとてつもないパワーや、アンゲロプロスの権力に対する怒りと絶望は十二分に伝わってくる。最後、狩人たち(ブルジョワ)が新年を祝うパーティの19分間にも及ぶ驚異的な長廻し。ダンスとバンド演奏、キャメラの滑らかな旋回、360度パン、エヴァ・コタマニドゥの息詰まるような演技、ヒッチコックの『ロープ』で使われた背中のアップによるシーン繋ぎ、主催者のブルジョワが歌い踊っている間に消えてしまう人々、パルチザンの乱入、そして復活する死体。映画技法に対して涙が出そうになったのは初めてかもしれない(笑)。それくらい衝撃的なシークエンスだった。長廻しは時間の流れを遅く感じさせることで、映画と観る者の関係性をより密接で深いものにしてくれる。それは物語を理解する、しない、ということとは無関係な部分で、充実した映画体験を与えてくれるのだ。アンゲロプロスが創り出す映像には、理性ではなく感覚に直接訴えかけてくるような魅力がある。だから難解でも多くの映画ファンの心を捉えて離さないのだと思う。

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盤質。ん〜『旅芸人の記録』以上に悪い画質でしたねぇ。IVCのDVDに毛が生えた程度です。シュートがかなりキツいですし、汚れも目立ちます。さすがにマスター素材が悪すぎますね。残念。