『鬼婆』

監督:新藤兼人

剥き出しの人間性、その荒々しい欲望の乱舞を、風吹き荒ぶススキが原を舞台にシャープなモノクロームで生々しく描き出した原始エロス。言葉ではなく表情や動きによって性欲の葛藤をダイナミックに捉える演出が素晴らしい。戦争下における社会的秩序の失われた世界に女二人と男一人が閉じ込められる、という特異なシチュエーションが人間の性的な本質を見事に引き出す。キャラクターでは乙羽信子演じる姑の存在感が圧倒的。嫁役の吉村実子は、演技は微妙だけれど肉体の魅力がそれを補って余りある。二人が上半身裸で寝ているショットは、老いと若さの対比といった月並みな印象とは別に、ある種生臭いエロティシズムを強烈に感じさせた。それにしても子供の頃にこの映画と出会わなくて良かった。あの最後のシーン・・・絶対トラウマになっただろうなぁ(笑)。

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盤質。古い作品なのでS/Nがやや悪いですが、全体的には非常に鮮度の高い、キレのある黒白映像です。音も良好。特典として監督の撮り下ろしインタビュー(91歳とは思えない明快な語りに感動)と撮影合宿の様子を捉えたドキュメント・フィルム(約35分)が収録されています。