『オープニング・ナイト』

監督:ジョン・カサヴェテス

どの作品においても「まず人間ありき」という姿勢を一貫して貫いてきたカサヴェテスが、再びジーナ・ローランズを「こわれゆく女」として起用したバックステージ物。ベテランの舞台女優マートルが、ある事件をきっかけに精神を病んでいき、やがてプロデューサーや舞台監督や脚本家の思惑を超えて、どんどん暴走していく様が、サスペンスとユーモアを含みながら緊張感たっぷりに描かれていく。そこには、あらゆる束縛から自由でありたいという独立精神、ハリウッド・システムに対する痛烈な皮肉が込められている。人間、舞台、製作の表と裏が、現実と非現実の境界線が曖昧になった世界の中で赤裸々に綴られていく。頻繁に映し出される鏡は、その意味でとても興味深い。それにしてもジーナ・ローランズ。何という存在感だろう。すべての表情、所作、声が異様なまでのエネルギーに満ち溢れている。般若面のような怒りと悲壮感がただよう表情、そして、単純さとは無縁の笑みにただただ圧倒された。夫でもあるカサヴェテス自らが演じる舞台俳優との最後の即興劇も素晴らしい。この映画、ひょっとしたらカサヴェテス究極のおノロケだったのかもしれない(笑)。