『チャーイニーズ・ブッキーを殺した男』

監督:ジョン・カサヴェテス

いわゆる犯罪劇の体裁をとってはいるが、物語としてのリズムや、かっちりした筋の組立てなどにはまるで無頓着なところが如何にもカサヴェテスらしい。キャバレー経営者のコズモという男が、マフィアから借金を抱え込んで、殺しの依頼を引き受ける、という経緯の詳細にはまったく興味がないかの如く、本道からちょっと外れたような部分ばかりを執拗に描いていく。それがなぜか、たまらなく心地良いのである。本来、核となる筈の殺しのシーンやマフィアとの絡みなどよりも、いかがわしいショーや、踊り子たちとコズモの行動を捉えた映像の方が断然魅力的なのだ。その逸脱が実は逸脱でもなんでもなく、作品テーマの所在を明らかにするための伏線であったことを最後に知る、すなわち、強大な力から自由と自立と愛を守るための闘いの記録なのだと分かった時、カサヴェテスの凄さをまざまざと実感するのである。この映画には、アンチ・ハリウッド作家ジョン・カサヴェテス自身の生き様がそのまま重なり合う。そう考えると、コズモ役のベン・ギャザラが『アメリカの夜』のトリュフォーに重なって見えるのも、あながち突飛な連想ではないのかもしれない(笑)。