『こわれゆく女』

監督:ジョン・カサヴェテス

初めから既にこわれていたであろうジーナ・ローランズ扮する3児の母。不安感と緊迫感が、何事も起きないかのように装われた、あらゆる場面に見えない形となって潜伏している。あるところでは表層に噴出し、あるところでは影を潜める。その危うさの絶え間ない連続に、観ている方も神経が磨り減ってくる。何故、女はこわれてしまったのか?劇中で触れられることはない。いくつかのセリフと、ある身近な人物の表情が、ひとつの恐ろしい推測を生むが、真相は最後まで分からないままである。ジーナ・ローランズ。本当に凄い女優だ。凄いとしか言いようがない。彼女の所作はほとんど子供そのものだが、時には妻に、時には娼婦に、時にはバレリーナにだってなるのだ。何という演技!何という演出!!突然やってくるエンディング、張り詰めていたものがスッと解放されるような幸福感とともにある種の戦慄が走る。ええぃ、もう言ってしまおう、カサヴェテスは天才だっ!