『マーニー』

監督:アルフレッド・ヒッチコック

華麗な犯罪劇を装った導入部から一転、危うい人間関係が織り成す心理劇へと移行して、遂にはサイコ的な主題がくっきりと浮かび上がってくる脚本の妙、そのスリリングな展開がたまらなく面白い。冒頭、黒髪だったティッピ・ヘドレンがプロンドになり髪をかき上げながら微笑む、そこに被さるバーナード・ハーマンの美しい旋律、いきなり心を鷲掴みにしてしまうヒッチコック演出の鮮やかさ。ショーン・コネリーも良い。洗練と野卑を併せ持ったような存在感が、凶暴な性的要素を潜ませる本作のイメージにぴったり合っている。重苦しいテーマ、後味もスッキリしない作品だけれど、斬新かつ巧緻な映画術によって上質の娯楽サスペンスに仕上がっているのは、さすがと言う他ない。