『センチメンタル・アドベンチャー』

監督:クリント・イーストウッド

まるでジョン・フォードの『捜索者』を想起させるオープニング。でもジョン・ウェインのように堂々とではなく泥酔状態で現われるイーストウッド(笑)。ストーリーはいたって平凡ですが、人間味とユーモアに富んだ語り口、名人芸としか言いようがない演出力で、実に見応えのあるロードムービーになっています。息子のカイル・イーストウッドが良いですね。いつもはタフガイのイーストウッドが肺病で酔っ払いで運転がヘタなのも全ては息子を立てるための親バカ的な配慮と言えなくもありません(笑)。最後に自らの死を看取らせるというのも強烈です。劇中では叔父と甥になっていますが、その緊密な関係の描き方はまさに親子そのものでした。二人の会話をアップショットで延々と映し出す夜のドライブ・シーンにはオヤジの愛が溢れていましたねぇ。この濃密な時間があるからこそ、死にゆくイーストウッドの非常にあっさりとした描写がかえって胸を打ちます。本作は2時間以上の尺で雰囲気もノンビリしていますが、こうした簡潔さ(娼館のシークエンスなんて心憎いばかり)が随所にあるので、作品全体としてのバランスは絶妙と言っても良いかもしれません。傑作。